2008年1月13日日曜日

販路拡大へ“発車” 山梨のワイン組合 初のイベント列車

販路拡大へ“発車” 山梨のワイン組合 初のイベント列車

 車窓の夜景とともにワイングラスを傾ける-。こんなしゃれたイベントが15日夜、千葉市内を走るモノレールの中で行われた。用意されたボトルは山梨産の新酒ワイン約100本で、山梨県ワイン酒造協同組合の2社が参加。各種イベントでの出展経験が豊富な同組合だが、イベント列車を手がけたのは初めてだ。関係者は、首都圏の市場をターゲットにした新たな販路拡大のモデルと位置づけている。(森口忠)

 夕暮れ時、東京湾に近い千葉モノレール「千葉みなと駅」には、若いカップルやワイン愛好家ら約60人が集まった。同モノレールは千葉県庁や市役所、住宅街など千葉市内を走り、懸垂型モノレールとしては世界最長の営業距離(15・2キロ)を誇る。

 ホームへ到着した2両編成のイベント列車「ワイン列車」を見た参加者は、驚きの声を上げた。車内の特設テーブルに、ワイングラスやボトルがずらりと並べられていたからだ。

 ワイン列車に乗り込んだ参加者は、甲州ワインを味わいながら千葉駅周辺の繁華街を眺望。木々を青色LED(発光ダイオード)で飾った千葉中央公園のイルミネーションの前ではモノレールが停止、地上約12メートルの高さからの夜景を楽しんだ。夫婦で参加した同市在住の鳥羽一豊さん(61)は「車内でワインを飲めるなんて不思議な感じ。新酒ワインも実に品の良い味だ」と口も滑らか。1時間45分の“空中散歩”は、盛況のうちに終わった。

 イベント列車企画に協力したのは、中央葡萄酒(甲州市)とスズラン酒造工業(笛吹市)の2社。中央葡萄酒の船橋清一・東京オフィスマネジャーは車内で、ワインの楽しみ方や山梨への観光来訪を呼びかけた。「千葉は人口が増加しており、ワイン消費の核を担う30代も多い。ブドウのワイン産地もないので販路拡大が期待できる」と語る。スズラン酒造工業の奥平久徳さんも「他業種とワインのコラボレーションは面白い企画でビジネスチャンスを探るヒントになった」と、手応えをつかんだ様子だ。

 千葉モノレールを運営する千葉都市モノレール(千葉市)は「企画段階で夜景イメージと、ぴったり合うのがワインだ」(営業推進課)として山梨県に持ちかけ、県ワイン酒造協同組合が協力。駅でチケット販売を始めたところ、わずか1週間で完売した。同社の三上都紘社長は「予想以上に早い売れ行きで驚いた。利用客以外の参加が多く、PR効果もあった」と話す。

 山梨産の選定について、三上社長は「品質の特に優れた国産ワインにこだわった。期待通りで、今後も続けたい」という。さらに「わが社としても地酒列車やビール列車などのアイデアが広がってきた」と、新たな事業展開への布石になったとしている。

 イベント列車の一翼を担った県ワイン酒造協同組合の望月太顧問は「千葉県の各地から参加があったことで、山梨産の良さを広くアピールできた」と話す。

 同組合に限らず、ワイン関係者がこうした催しを意識するのには理由がある。

 国税庁がまとめた平成17年度の都道府県別ワイン消費数量によると、首都圏の消費割合は大きく、東京が23・8%で全体の約4分の1を占める。周辺の神奈川、千葉、埼玉は人口や飲食店を多く抱えて上位にあるものの、3県合計では17・7%。東京の一極集中が際だっている。

 「市場規模やアピール効果から、PR活動は都心になりがち」(山梨県工業振興課)というように、毎年11月に東京・日比谷公園で開かれる「新酒ワインまつり」や商談会など、関係者は東京市場を重視。北海道や長野など他県産や外国産とのブランド競争の中で、浸透を図らなければならなかった。

 望月顧問は「これを機に神奈川、埼玉方面に攻めていく足がかりになるのではないか」とみる。県も「参加した60人が山梨産をどう評価するか、非常に興味がある」(地場産業担当)と注目する。

 「一軒でも多く千葉の店で山梨産ワインを置いてもらえればうれしいのだが…」(関係者)。ワイン王国の意地をかけて、新たな一歩を踏み出したといえそうだ。

出典:MSN産経ニュース