日本酒がすすむ和食店「木村商店」(東京・三軒茶屋)
すずらん通り商店街や栄通り商店街など、東京・三軒茶屋にはたくさんの商店街がある。通りの両端には居酒屋やラーメン屋といった飲食店がひしめき合っている。そう、ここでいう商店とは金物屋でも電気屋でもなく、飲食店のことなのだ。今回紹介する「木村商店」も、店名からは予想できないかもしれないが、実は和食店。ただしこの店は商店街沿いにあるのではなく、大通りを一歩入ったところにある。この"一歩入った"というのが、なんとも隠れ家的でいいのだ。
10坪ほどの店内は、カウンター8席と大テーブル1つとコンパクト。大テーブルには大人8人が悠々座れる。元々はスナックだったところを、スケルトンから改装してオープンした。白い壁に囲まれた空間に、明るい木目のフローリングとカウンターというと少しかわいらしいイメージを与えるが、実際はダークブラウンの椅子が全体の雰囲気を引き締め、大人の空間になっている。
カウンターの中は、店主の木村国博氏が一人で切り盛りする。宇都宮から上京し、美容師の専門学校を卒業後、しばらくは美容室で働いていたという木村氏。しかし「合わない」と悟り、商売道具をハサミから包丁に持ち替えた。洋食屋や居酒屋での調理場経験の後、東京・麻布十番の名店「暗闇坂 宮下」で5年。今の料理の礎はここで築かれたといってもいい。ということは、「宮下」の匂いのする逸品がここで食べられるということだ。しかもお値段はかなりリーズナブル!
「出汁巻き卵」(650円)や「ポテトサラダ」(600円)といったおふくろの味的なものから、旬の魚の刺身や冬なら生牡蠣といった海鮮まで様々。どれを選ぼうか迷ってしまう。自慢は総州(茨城県筑波山麓)産の古白鶏(こはくどり)だ。「ももの唐揚げ」(750円)や「塩焼き」(850円)もいいが、ここに来たらぜひ「ささ身の刺身」(650円)を頼んでみてほしい。艶やかなピンク色のささ身はプリッとした食感だが、舌の温度でふんわりと溶けていく。もちろん臭みはまったくない。わさび醤油が基本だが、塩で味わっても甘味がさらに引き立ってよいだろう。
そんな極上の皿たちのお供は、選りすぐられた日本酒の数々である。常時15種類ほどを揃えている。それらすべてがグラス(90cc)か片口(一合)で頼める。中でも希少視されている「十四代 本丸」(グラス400円/片口800円)や「田酒」(450円/900円)がいつでも、しかもこの価格で飲める点に驚き。これらを柚子みそのかかった「ふろ吹き大根」(600円)や「季節の野菜と帆立、きのこを白ゴマと西京みそソースをかけて焼いた和のグラタン」(900円)とともにいただくと、杯が進みすぎて「木村さん、ズルい」と言ってしまいそうになる。日本酒の他には、焼酎7種類、泡盛2種類、梅酒3種類、さらにはワインもある。
この店では、「とりあえず何でも言ってみよう」というスタンスがオススメ。ほとんどの料理がハーフポーション可能だし、生ビールもグラスの大きさを選ばせてくれる。お腹がすいていたら、メニューにあるお茶漬け以外におにぎりや海鮮丼など、可能な限りリクエストに応えてくれる。木村商店は、会社帰り、一人でふらりなど、どんなシチュエーションでも心地よく過ごせる空間を売る店なのであった。
出典:マイコミジャーナル