2008年1月25日金曜日

フランスワインに勝ったポルトガルワイン

フランスワインに勝ったポルトガルワイン

 先日、ワイン愛好家として有名な俳優の辰巳琢郎さんが仕切るBSのトーク番組『辰巳琢郎のワイン番組』に、二人揃ってゲストとして出演した。その番組名通り、ワインと軽めの料理を採りながら、辰巳さんとさまざまな話をするというシンプルな内容なのだが、ワインに関する「演出」はなかなかマニアックで、面白かった。

 まず撮影現場に行くと、テイスティング・グラスに入ったワインがずらっと並んでいる。白、赤、ロゼを含めて12種類あり、ステム(脚)に番号がついているが、銘柄は書いてない。つまり目隠しテイスティングである。

 ワイン会などで、余興として目隠しをやりたがる人は多いが、これは世界ソムリエコンテストの場においてさえ、やすやすとは当たらない。ワインの達人でもマクロ・テロワール、つまりワインの生産国を当てるのがせいぜいだとさえ言われている。だから目の前に並んだブラインドのワインを見た時はぎょっとした。まさか、我々にこれらの銘柄をすべて当てろというのでは……?
「そんなムチャなことは言いません」と、辰巳さんは笑いながら説明してくれた。
「このなかで今日の気分に合うワインを1つ、それと姉弟で相談して、亜樹直のイメージにぴったりのものを1つ選んでください」

 なるほど、と感心した。これならワインに詳しい人もそうでない人も、それぞれに楽しめる。さすがは食とワインに精通している辰巳さん、よく考えられたゲームだ。

 ちなみにこの12種類のワインは、すべて生産国が異なる。1カ国につき1種類、全12カ国のワインがあり、フランスと日本のワインもひとつずつ混じっているという。

 実は、これを聞いて私は内心ちょっと戸惑った。私はフランス贔屓(ひいき)で、姉弟で飲むのも圧倒的にフランスワインが多い。でもここにあるのは新世界ワインがほとんどだ。飲んでみておいしいと思えず、気の利いたコメントが出てこなかったらどうしようと思ったのだ。ところが並べられた12種類は、どれもそれなりの個性をもっていて、「あまり良くない」と感じたのは1種類だけだった。私が「今日の気分に似合うステキなワイン」として選んだのはオーストリアの辛口リースリング、弟が選んだのはアメリカのスパークリングワイン。どちらもレベルが高かった。

 そして亜樹直のイメージということで我々が「ベストワイン」として選んだのは“10番”という番号札がつけられた濃い口の赤ワイン。後で聞いてビックリしたが、なんとポルトガルのワインだった。正直に明かすと、これまでポルトガルのワインを美味しいと思ったことはなかったが、これは別格である。それもそのはず、これはラフィットがポルトガルで作っている『キンタ・ド・カルモ』。アラコネスなどの地葡萄を中心に、カベルネが絶妙の比率でブレンドされており、値段は3000円台ながら、フランスワインのエレガンスが感じられる品質の高いワインだった。

 フランス贔屓のくせに選んだベストワインがフランスでなかったことは、我々としてもちょっと残念だった。でもワインの世界は広く、新世界といわれる新興産地の中にも、素晴らしいワインがたくさん存在する。我々もまだまだ、飲んだり飲まされたりしながら、勉強を重ねなくてはならないようだ。

(参考:弟が選んだアメリカのスパークリングは『コーベル・ブリュット』、私が選んだのはオーストリアのリースリングで『クレムザー・バッフェンベルグ・リースリングQTW 2003』。どちらもお手頃価格)

出典:朝日新聞