2008年1月13日日曜日

おせちの定番“数の子”はワイン泣かせのわがまま王子

おせちの定番“数の子”はワイン泣かせのわがまま王子

新年はいかがお過ごしでしたか。今年最初のコラムなので、おくればせながらご挨拶を。

 昨年中はお世話になりました。本年も『ワインの歳時記』を何卒宜しくお願いいたします。

●おせちとワインのマリアージュを楽しむ

 毎年1月3日は仲良しのご夫妻が主催する新年会です。メンバーは金沢つながりなので、名産の食材も揃い、お呼ばれしている面々はお正月から幸せな気分に~。夫人が作るおせち料理も大好評です!

 私はもっぱらワインと料理の相性について軽くアドバイスする程度ですが、持参させていただくワインは“おせち料理”とのマリアージュが楽しめるもの、加えて、ご夫妻の誕生日がともに3日なので、おふたりへのお祝いを込めたワインにしています。

 今年は『シュヴァリエ・モンラッシェ1993(ドメーヌ・ドーヴネ)』と『シャトー・オー・ブリオン1992』にしてみました。

 15年、16年という年月を経過したワインの熟成具合と複雑味は、様々な味わいのおせちと良いハーモニーを醸し出していました。さらに、癖のある「かぶら寿司(かぶらを輪切りにしてブリをはさみ米糀で漬け込んだ金沢特産の漬物)」や、押し寿司などにもぴったり! 当日、用意されていたシャンパン3種(『ルイ・ロデレール・ブリュット・プルミエ』、『ヴィルマール』、『エグリ・ウーリエ』)や赤ワイン『シャトー・モンローズ1995』もおせちとの相性が良く、一同大満足でした。

●2007年と2006年の体験も参考にして

 2007年は“自然派ワイン”という言葉に注目が集まっていたので、ビオディナミ農法(※)の生産者を選んでみました。白ワインはニコライホーフ醸造所の『リースリング2002 スマラクト』です。輝きがあり果実味が豊かで口中滑らか。特に「白子」との相性が絶妙で口中でとろける感触が印象的でした! ちなみにスマラクトとはオーストリアのバッハウ地方で最高のワインに与えられる名称、日当たりの良いぶどう樹の下でまどろむエメラルド色のトカゲを意味しています。

 『シャトー・ル・ピュイ・バルテルミー2000』は深みのある紅色でタンニンはワインに溶け込み柔らかでシルクのような口あたり。「黒豆」や「クワイのから揚げ」、「タラの昆布締め」との組み合わせも上々でした。

 そして2006年には貴腐ワインの『シャトー・ド・ファルグ1979』を中心にしながら相性を探ってみました。輝くばかりの黄金色で上品な酸と舌全体を包み込む重厚感のある甘さにはうっとり。栗きんとんや黒豆などのように“甘さ”を主体にした料理から、洋風の「ローストビーフ(わさびとポン酢で)」や「白子(ゆずを添えて)」、デザートのリンゴタルトやロックフォールチーズまでOK、守備範囲は広いです。

 ただ、ここ何年かのマリアージュ体験で納得できないのが、“ワインと数の子”の相性。特に「和食はシャンパンと良く合う!」と思っているだけに、両者を合わせた時に口中で感じる生臭さにはがっかりします。年初からフィリポナの『グラン・ブラン・ブリュット1999』やゴッセの『グラン・ロゼNV』などのヴィンテージ物やロゼでも試しているのですが、良い結果は出ていません。

●わがまま王子の“数の子”とワインの相性はいかに

 そこで、先日『ワインと料理の相性診断』(講談社)の渡辺正澄先生に伺ってみました。先生は「数の子に含まれるヒポキサンチンを中和させることで、ワインとの相性は良くなりますよ」と教えてくださいました。中和させる有機酸はグルコン酸! このグルコン酸は貴腐ワインにもバルサミコ酢にも含まれています。

 先生の御本にも「純粋なグルコン酸の水溶液の中では、数の子のあの苦味はすっと消え去り、まったくなめらかな風味に変わってしまう。貴腐ワイン中に多量にある糖分も、数の子の苦味を多少消してくれるが、完全ではない」という記述がありました。

 さて、ワインとの相性を良くするための手順ですが、(1)数の子を塩抜きし、膜をきれいに取り除いたら、貴腐ワインあるいはバルサミコ酢に浸す(この場合、高価な貴腐ワインよりバルサミコ酢の方が無難)、(2)数の子を酢から取り出し、よく洗い流す。あとは従来通り、味付けをして出来上がりです。先生いわく「バルサミコ酢はより上質なタイプのほうがお薦め」とか。

 ワイン泣かせの数の子は、とかくお金がかかる食材みたいです。次回はこのチャレンジ報告をいたしま~す。

※月の満ち欠けや天体の動きにあわせて、ぶどう栽培やワイン醸造を行なう自然農法

出典:朝日新聞