2008年2月3日日曜日

ピザ、ゆとりも乗せて

ピザ、ゆとりも乗せて

 福田赳夫元首相の銅像が立つ高崎市立群馬図書館と、県道をはさんで向かい側、高崎市足門町にある「ナッティ・ブレッド」は、駐車場に石を積み上げてつくった窯を持つパン屋さんだ。冬の間は金曜と土曜の夕刻限定でまきをくべ、本格的な「ナポリピザ」を焼き上げる。

 吹きっさらしの駐車場。ピザの販売は日が傾き始めた午後4時過ぎから。だが、店主の市村昭さん(53)は、適温の400度に窯の温度を上げるため、2時間も前から準備に取り掛かる。取材の日は特に寒く、温度がなかなか上がらない。

 午後4時半には、事前に予約を入れた主婦が子ども連れでやってきた。市村さんが「悪いね、ちょっと時間がかかるよ」と伝える。普段なら2、3分で焼き上がるが、この日は10分以上かかった。寒空の下で待たされても、母子は満足そうにピザを受け取った。

 市村さんは言う。

 「できあいじゃないピザをわざわざ頼むお客さんっていうのは、基本的に待つことができる人たち。焼き上がる間に会話も弾むし、こっちも単にパンを売っているより、ずっと面白いよ」

 知人の大工に依頼し、オリジナルの石窯が完成したのは昨年夏。12月までは水、木曜日を加えた週4回はピザを焼き、香ばしいにおいに誘われて、飛び込みの客が続々とやってきた。中にはワインやビールを持ち込む客もいて、野外パーティーのような雰囲気になったこともあったそうだ。

 目先の利益だけを考えたら、石窯ピザなんて始めなかったという。単価の高いモッツアレラチーズをたっぷりつかった直径30センチのピザを、1050~1870円で売っても、もうけはたかが知れている。雨が降れば営業できず、火を入れている間は、客がいなくても窯を離れることができないなど、手間もかかる。

 一昨年秋、近くに巨大ショッピングモールができた。何でもそろう便利さで比べられたら、個人の商店は太刀打ちできない。考え抜いた末、客に「ゆったりとした時間」を過ごしてもらうことを、目標に据えた。

 第一弾として、朝6時に店を開け、店内でモーニングセットを出すようにした。「どんなに忙しくても、朝くらいはトーストをかじりながら、新聞を読む程度の余裕を持って欲しい」という思いを込めた。

 そして、店主とのおしゃべり付きの石窯ピザ――。「若い人ほど、店のおやじと話すなんて面倒くせえと思うみたいだけど、そうしたことを否定したら、街のパン屋に価値はないからね」と、市村さん。春になったら、窯に火を入れる日を週4回に戻すつもりだ。

出典:朝日新聞