2008年1月16日水曜日

若者限定? 和風サロン

若者限定? 和風サロン

 わが家はフランス西南部屈指の観光地、ドルドーニュ地方にある。1979年にユネスコ世界遺産に指定された「ヴェゼール渓谷の先史時代史跡郡と洞穴壁画群」の近所というロケーションも手伝い、ばっちり景観保護区に入っている。この区域では、建築様式や雨戸の色までが細かく決められており、「フランス建造物公認建築士(ABF)」が目を光らせている。ぎゅうぎゅうと規制を課せられる建物職人などに言わせると、「公認建築士」は「詩人」のようなもので、「言うことは変わるし、抽象的だし、まったく頭に来る」そうだ。まあ、外観は規制されてもインテリアは自由だから、それほど不便は感じない。

 外から見るとこの地方でよく見かける「元タバコ干し小屋」のわが家だが、中に入ればサロンは思い切りジャポネスク。決して私の趣味ではない。フランス人の夫のこだわりだ。

 夫のコンセプトは「サロンはくつろぎの場所なので、ものは最小限に」というもの。ある友人は「空き巣に入られたみたいだ!」とコメントしたが、典型的なフレンチサロンに必需品のソファとテレビ、ごってりとした調度品の類いがないのだから無理もない。サロンの片隅にはガレージセールで見つけた5ユーロの机の脚を切って「文机」に仕立てている。中央には木工内装職人の義父に「特注」した低いテーブルを置き、香などを焚いて悦に入る夫。だが、この和風サロンには不便な「年齢制限」があることに気づいた。

 個人差はあるにしてもフランスの50~60代以上の中高年は、ペタリと床に座ることができない人が多い。一度座ったら一人では二度と立ち上がれない。直に座ったままの食事は拷問のようなものだ。だから、年配のお客様の時にはキッチンのテーブルを運んで来るか、天気がよければテラスで食事となってしまう。

 若者だけの時は、ジャポネスクを思う存分味わってもらえるが、ここでもちょっとした問題が起こる。宴もたけなわとなる頃には半数がワイングラスを片手にセイウチさながら横になっている始末。しかも食事は終わっていない。「ちょっと! 行儀悪いよ!」と指導しても「ボクたちローマ人の子孫だから、寝転んで食べてもいいんだよ。しかし、日本風サロンって最高!」……。

 どうも間違った日本観を友人一同に与えているようで夢見が悪い。

出典:朝日新聞