本場・北部九州 蔵開き始まる 新酒の一滴蔵人の技 本物求め、原点回帰
新酒の季節がやってきた。九州各地の酒蔵でも、9‐11日の三連休を中心に4月まで随時、蔵開きが行われる。九州北部は全国有数の酒どころ。地域に根付く食文化の1つとして、酒造りの現場を訪ねると、味わいもさらに深くなってくる。
2月中の週末を開放する浜地酒造(福岡市)。初日の2日、来訪客に新酒や甘酒が振る舞われていた。この時期に訪れるのは1日700‐800人。同社の国友武男さん(28)は「皆さんと直接顔を合わせることが少なく、年に一度の大切な機会。日ごろのお礼も込めて、この季節ならではの新酒をぜひ味わってほしい」と蔵開きへの思いを語る。
蔵開きでは製造現場の見学やさまざまな酒の試飲など特典がある。目玉は新酒をじっくり味わえること。同酒造でも荒走り、中取りなど、搾りの段階で味わいの異なる種類を飲める。全体にさわやかな香りや甘みがあるが、それぞれ丸みや深さに特徴がある。ぴりっとした炭酸ガス(二酸化炭素)の触感も新酒ならではだ。
福岡県久留米市から来た女性(48)は昨年の蔵開きでこの蔵が気に入り、今年は早速初日にやってきた。「蔵の雰囲気を味わいながら飲むお酒はまた格別」と語った。
日本酒の蔵は、消費・生産量ともピークだった1970年代前半には3500カ所以上あったが、現在は半減している。ワインや焼酎、リキュールなど種類の多様化、若者の飲酒量減少など要因はいくつかある。
流通形態も変わった。卸や小売りに任せていた販売が、ディスカウントショップやインターネットの登場により、直接販売の傾向が強まってきた。福岡県酒造組合理事の鈴木正柯(まさえ)さん(65)は「各蔵は銘柄を増やすなどさまざまな取り組みをしてきたが、現在は本当に作りたい酒は何か、原点に戻っている」という。「お客さんも本物を求める時代。長い目で見て、心から喜んでもらえる酒をこれから20年、30年と作り続けられれば、本当に“酒が復活した”と言えるのではないか」
鈴木さんは「日本酒は酒類の中でも造るのが最も難しい」とみる。
米が蔵に届くのはおおむね11月。精米後、米の水分が安定するまで2週間から1カ月かかるため、蒸米など仕込みが始まるのは早くて11月末だ。年末あたりに始まった搾りは、春まで続く。その年の米の出来や気候の違いなどを考慮し、例年と同じスタイルの味にどう造り上げていくか、蔵人たちの技量が問われる。口中の一滴に彼らの思いを感じ取ると、感謝の気持ちもわいてくる。
蔵開き時期は蒸米から搾りまで、全作業が同時並行に行われる最盛期。見る側にはうれしいが、作業を邪魔しない配慮が必要だ。酒蔵は雑菌を嫌い、炭酸ガスも出るので入れない場所もある。
開放日は蔵によって異なるため、各蔵に問い合わせるとよい。同組合=092(651)4591=はホームページ(http://www.fukuoka-sake.org/)で日程を紹介している。
出典:西日本新聞