極上ソース「極黒」 マーケティング推進課(秋田・横手市)/産地のうま味凝縮
タマネギ、ニンジン、セロリ、ワイン、リンゴジュース・・・・・・。秋田県横手市は、農村ならではの“うま味”を凝縮し、料理の味を引き立てる極上のソースを生み出した。その名も「極黒(ごくくろ)」。商品化にこぎつけるまでには、特産品を活力につなげようと奔走する市の若手職員らの情熱があった。2年目に入り、ソースを使った名物料理も生まれている。
「横手市にはいい素材がある。でも、どれも突出したものがない」。市内で生まれ育ったマーケティング推進課の山本剛(36)は歯がゆかった。農家出身の友人からは、閉塞(へいそく)感ばかりの声を耳にしていた。
市は2006年4月に農業を支えようと、特産品開発と販路開拓の支援に特化したマーケティング推進課を設置した。各部署から集まった職員5人の中に山本の姿があった。増田町、平鹿町など8市町村で合併した新生横手市の目玉の事業。何としても形にしたいと山本の思いは強まった。
ある時、市販のソースの裏ラベルを何気なく眺めている時にひらめいた。「材料はすべて横手でそろう」。地域を掘り起こせば、ほかに負けない特産物ができるという発想は旧横手市の商工観光課時代にはぐくんだ。先輩職員のアイデアで雪を雪室の「かまくら」形の発泡スチロールに詰めて売り出したところ話題になった。厄介者の雪でさえ、付加価値につなげられた経験は「動けば道は開ける」との思いを強くした。
マーケティング推進課と、消費者、食品販売会社、大学などが集まり、ソース作りのための研究会ができたのは06年6月。名前やパッケージなどを地域ぐるみで考えることで「わが特産品」を育てる演出も整えた。
首都圏のソースメーカーに委託して製造を始め、07年2月に販売をスタート。200ミリリットルで525円と高価格にもかかわらず、地場産へのこだわりが受けて、用意した1万本は秋を待たずに売り切れた。商品を求める問い合わせが相次いだ。
ソースを使った名物も生まれた。市内のお好み焼き店3店舗で始まった、米粉を使った生地に目玉焼きを載せて作る「横手焼き」がそれだ。条件は「極黒を使うこと」と明記された。
「何よりの成果は職員の意識改革」と課長の小川孝行は強調する。職員は原料調達のために生産現場を訪れたり、加工工場にも足を運ぶ。
ソースの材料を運ぶトラックのハンドルを握るのも山本ら職員だ。栃木県日光市にある製造工場までの約500キロの道のりは生産、流通、加工をつなぎ、地域の活力につながる道でもある。
〈メモ〉
焼きそばで地域づくりを進める横手市。タマネギ、ニンジンなど5品目を使ったソースは、老舗ソースメーカー、ユニオンソース(東京都)に製造を委託した。商品は中濃、ウスターソースの2種類。市内の道の駅など物産館や地元小売店で販売している。ソース作りの仕込みは10、11月。2年目は1万5000本の販売を予定する。リンゴジュースやスイカ糖など特産品作りを広めている。
出典:日本農業新聞