2008年1月29日火曜日

長野・中野から 無袋栽培「濃ミツ」リンゴ

長野・中野から 無袋栽培「濃ミツ」リンゴ

 高級なリンゴは、果実に袋をかけて栽培するもの――。リンゴの生産量全国2位の長野県で記者生活を送り、そんな思い込みは打ち砕かれた。どこのリンゴ畑を見渡しても、袋なんてほとんどなかったのだから!

 果物売り場では「サンふじ」と記されたリンゴは目にしても、「ふじ」はほとんど見かけなかった。そんな疑問にケリをつけようと、懐かしの信濃路を目指した。

 最初に訪れたのは、須坂市の県果樹試験場。「果実に袋をかける『ふじ』に対して、袋をかけないのが『サンふじ』。無袋栽培は、信州リンゴの特徴を説明するキーワードです」。育種部研究員の前島勤さん(44)が解説してくれた。

 収穫のひと月前に袋を外し、一気に色をつけるふじは見た目がよく、日持ちもする。一方、サンふじは着色に苦労するが、袋をかけて外す膨大な作業が省ける。長く日光を浴びている分、ミツの入りもよく、より高値で取引される。

 「長野は無袋栽培に取り組んだ時期が早く、『サンふじ』も全農長野が1980年に商標登録しています。品種別ではふじが6割近くを占めますが、そのうちの9割は無袋のサンふじなんですよ」

 長野電鉄で中野市へ。エノキタケの生産量日本一を誇る農業の街を目指したのには訳がある。サンふじの産地であるだけでなく、4軒の農家が開いたワイナリーがあり、リンゴの発泡酒シードルを作っている。酒好きの血が騒いだ。

 雪を頂いた高社山(こうしゃさん)を間近に仰ぐ竹原地区で、ブドウを中心に手がける浦野正和(まさたか)さん(52)は、30アールのリンゴ畑でサンふじも栽培する。県のコンクールで受賞歴を持つ模範的なリンゴ農家だったが、約30年前からリンゴの価格は半減。年々、ブドウの比率が高まっていった。

 「袋がないから、虫や病気には気を使う。十分にリンゴに光が当たるよう剪定(せんてい)するのがポイント」と浦野さん。たっぷりとミツの入った果実は、パイナップルのように濃厚な甘さをたたえていた。

 最終目的地は「たかやしろファーム&ワイナリー」。社長の武田晃さん(54)は、リンゴ農家でもある。「サンふじは作るのが難しく、出荷できるのは約6割。だったら残りを有効活用し、シードルにしようと考えました。酒好きの農家も多いし、サンふじは酸と甘みが調和していて加工に向くんです」

 果実を搾ったジュースに酵母を入れ、瓶の中で2次発酵させるフランスの伝統的な醸造法を取っている。「地元で作り、地元で飲む地産地消の代表格がワインだと思う。土地の人が親類に送り、『なるほど中野の味がするわい』と言われるようなシードルにしたい」

 黄金色の液体を口に含むと、さわやかな香りと、軽快にはじける泡の間から、完熟しきった果実のうまみが立ち上った。ほのかに感じられた土の味に、シードルにかける情熱が凝縮されているような気がした。

出典:旅ゅーん!